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著:リチャード・ライト
訳:野崎 孝


 J・ボールドウィンが第三の父と呼んだ黒人作家リチャード・ライト自伝的小説。
作中リチャードに友人が忠告するシーンがある。

「お前はなんだってそんななんだ?お前は白人と喋る時まるで黒人と喋っているようだ」

彼には白人よりも何が劣っているのか全く分からなかった。
そして行動に出た。
 当時南部に住む黒人達は作家という夢を持つ事すら許されなかった。
例えばそれを友人に話したとすれば頭を疑われる。
彼はジレンマの中心で摩天楼のように聳える壁に耳をひっつけ、
その奥に何があるのか確かめようと努めた。
 厚い壁を拳で殴り、優しく語りかけ、裸足で駆け上る。


 私にとってこの本は自分の自由さを知れる、そして同時に間抜けさを知れる本だ。
行動欲と好奇心が新芽のように心臓から体の隅々まで頭をもたげてくる。
本当に読んでよかった。
私が生涯を通じて絶対に手放さないであろう本です。

評価:★★★★★
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著:ボールドウィン
訳:野崎 孝

 ルーファウスは自分の肌が黒いという事実を
レオナといると再認識しないわけにはいかなかった。
何故なら彼女は白かった。
しかしレオナにとって肌の色なんて何の意味も持たない。

「愛する事に肌の色が関係あるの?」

 だが再認識するたびに彼は苛立ちをレオナにぶつけ暴力を振るう。
彼女への劣等感がそうさせるのだ。
色の違いだけでなく、それを気にしないでいれる彼女への劣等感。
彼はレオナは自分には勿体無いと思っていた。
そしてレオナは彼がそう思っている事を知っていた。

 ルーファウスは急速に堕落していった。
暴力でレオナを精神病院にぶちこんだ男、そして男娼をしたりしながら一日を生き延びる男を
一ヶ月ぶりに再会した白い親友ヴィヴァルドは受け入れようとする。
しかし、ルーファウスは自殺をした。

 愛された黒人ルーファウス、その親友の白人ヴィヴァルド、
兄を心から慕い白人への怒りで瞳を燃やす黒人アイダ、
黒人を愛した白人レオナ、ルーファウス、ヴィヴァルド旧知の仲のキャスとリチャード、
そしてルーファウスを愛し自らの愛の定理を模索する白人エリック。

彼らはもつれ合いながら削り取るようにして人生と愛と人種と人間とを発見していく。


 凄く良かった。
エリックはゲイなんだけど私は彼の気持ちが体の中に入ってきたようで
インフルエンザにかかった時のように節々がズキズキと痛んだ。
ゲイって事にじゃなく偏見や差別、彼の受ける恥辱に、だ。
エリックだけでなくルーファウスとアイダが共に黒人であるがゆえに受けた差別も、
それを振りかざす凶暴な精神状態もだけど。
 なんだか自分を省みてしまう。
この本を読んで不定形である「愛」という概念は更に液状化して
私の中からどうやら溶け出してしまった。

評価:★★★★★

著:A・モラヴィア
訳:大久保昭男

 アゴスティーノには若く美しい未亡人の母がいた。
彼は湖に泳ぎに行く度に男達の羨望の眼差しが母に注がれていると感じ
誇らしく思うと同時に母に幼い憧憬を抱いていた。
 ある時いつものように母と泳ぎにでると若々しく逞しい青年が彼女に手を差し伸べる。
頬を染める母、いつもと違う母に少年は苦々しい気持ちで一杯だった。
それ以上に青年に対しては怒りすら抱いていた。
 それからというもの青年とアゴスティーノと母の三人で湖へ出かけるのが日課となった。
アゴスティーノは何かと理由をつけてそれを断った。
それというのも3人でいると何か自分にはわからない熱い言葉、魔法の呪文を男と女は語り、
まるでアゴスティーノはそこにいないかのように扱われるからである。
 彼の不快感は態度にも露骨に出るようになり、母は彼に平手打ちを与える。
熱い頬を抱きながら脱衣所で泣いているとかくれんぼをする漁師達の子供が入ってきた。
身なりは貧しく荒々しい目つきをした子だった。
 自分とは全く違う彼にアゴスティーノは惹きつけられ彼の世界にその身を投じるようになる。


いや~良かった。
めざめ・反抗の二篇がはいってるんですが「めざめ」はよいですね。
今までのアゴスティーノの揺り動く純粋さとか細さが身を委ねていた現実から逃げ出し、
漁師の子供達の粗野で残酷な現実を知りそして惹かれ、
それにもなじめない自分と衝突する様。
あ~良い。
売ってたら読んでみて下さい。
古本屋ならあるかも。
もしくは大きな本屋でハードカバーならあるかなぁ?

評価:★★★★☆

著:小松左京

 目覚ましのベルが鳴り響く。
いつものように妻ががなり立てるのがおぼろげに聞こえる。
あと10分だけ・・・そう思っていると足音がどんどん近づいてきた。
「牛のように眠りをむさぼれたら」
そう彼は思っていた。
ああ、僕は・・・になりたい。
いよいよしびれをきらした妻が布団を剥ぎ取ったその瞬間、たまぎるような叫び声をあげた。
どうした?とかけた声は言葉にならず奇妙に響く。
彼は”のっそり”立ち上がった。


 カフカの変身と同じような始まり方ですが、作中でもそのことに触れており
明らかにそれとは違う事が自分の体に起こっていると主人公は明言しています。
要するに彼は自由に変身を解除でき、また何にでも変身する事ができたのです。
 で~まあ、細かくあらすじ言っちゃうとつまんなくなっちゃうと思うんですよね。
しがない小市民のサラリーマンが持った特殊な能力をどう使うか。
そういうお話ですね。
あ、あと笑えます。
シュールレアリスティックな作風です。
SFって時点でそうなっちゃうんですかね。どうなんですかね。

毎日毎日仕事や生活に自分が磨耗されているような気がする方にお勧めです。
因みに私は好きでした。

評価:★★★☆☆

著:ボールドウィン
訳:斎藤数衛

ジョンは説教師の息子、母の連れ子、父と母の息子の荒くれた弟ロイの兄だった。

 母エリザベスはリチャードという男を愛しジョンを身篭る。
互いに愛し合い将来の不安を感じず幸せな日々を送る。
しかしリチャードは都会の差別と絶望の中で死んだ。
 ジョンを産んでからのエリザベスは人にできるだけ心を開かないようにし
以前とは比べ物にならないほど堕落する自分を認めながら生活するが
同じように愛した男を失ったフローレンスに堕落したもの同士の連帯感を感じ心を許しあう。
エリザベスはその年かさの友人に人に言うことのできなかった今までの鬱憤を一気に吐き出した。

 ある時、フローレンスの弟ガブリエルが南部より姉の住む北部へ来るという知らせがあった。
フローレンスの顔は曇る。
彼女は幼少の頃よりその弟ガブリエルに深い憎しみを覚えていた。
 彼が産まれるまではフローレンスは自由に夢を描いていた。
しかし将来の働き手であるガブリエルは必然的に一家の基準となり
彼女の自由や意思はそれにより縛り付けられてしまう。
彼女はもっと学びたかったがガブリエルが学ぶ為に諦めた。
彼女はもっと着飾りたかったがガブリエルの為に我慢した。
ガブリエルはそれを当然とし、学べる環境でも学ばず遊び呆けていた。
そんな日々に嫌気が差したフローレンスは病気の母と弟を残し北部へ旅立つ。
ガブリエルは絶望した。
姉がいた為に許されていた自由が病気の母により拘束されてしまう。
彼は必死に姉を引き止めたが彼女は振り返りもしないで去って行った。
その後ガブリエルは今まで以上に堕落した。
酒を大いに飲み、女と遊び、どぶで寝た。
そんな日々の中、ある時彼は酒臭い息を吐きながら自分の家が遠くに見える早朝の丘にいた。
犯した罪とこれから犯す罪に彼の心は打ち砕かれその体を小鳥すら囀らない静寂が包んだ。
彼はその瞬間、神に大声で憐れみを請うた。
何度も何度も恐怖から逃れる為に涙を流して悲鳴を上げた。
神は答えなかった。
しかしその時、彼には聞こえた。
母が低く優しく彼の為に祈る声を。

 彼はこの出来事により雄弁な説教師として開眼する。
そして敬謙な信者でフローレンスの旧友デボラと結婚するが
彼曰く「悪魔の働き」により彼の説教を聴きに来た神を信じない女との間に子供を授かってしまう。
ガブリエルは戦慄し、悪魔の仕業だとし、女を罵り、
デボラが貯めていた金を盗み北部へと女を追い払った。
女は彼を恨みガブリエルの罪の証であるロイヤルを産んで死んだ。
妻デボラはガブリエルの行った全てを知っていた。
そしてフローレンスに聖者の行った非道を書き記した苦悩の手紙を送り病の為に死ぬ。

 フローレンスは説教師となった彼を幼少の頃と同じように憎しみの目で見ていた。
いつも武器のようにデボラからの手紙を持ち歩き、彼の本性を決して忘れなかった。
フローレンスの家でエリザベスとガブリエルがはじめて出会ったとき、
彼女はエリザベスに警告の視線を向けたがもう既にそれは遅かった。
エリザベスはガブリエルに救いを見出し、
ガブリエルはエリザベスとジョンに過去の罪を見た。

 エリザベスとガブリエルはこうして出会いジョンの一家が形成される。


 ジョンの一家一人一人の人物像を浮き彫りにしていき
読者にそれを把握させた上でジョンが神に目覚めるまでの
長い長~い一日が描かれている小説なのだけれども
とにかくしつこいほどの心象描写が特徴的だった。
かなり端折ったけど長くなっちゃったよ。
 当時黒人のスポークスマンのようにされていたJ・ボールドウィンだけど、
この作品は翻訳後記にあるとおり実験的なものだったんでしょうね~。
差別や黒人の考えを代弁するかのような黒人作家独特のスタンスではなく、
もちろん根深い差別はちらりと見えるのだけれども
それより何より人間としての考え方に比重を置いているように感じます。
そんでもって先にも述べた通りしつこい。
本当にしつこい。
本当に本当にしつこい。
翻訳によるものなのか判らないけど嫌いな人は嫌いかも。
でも私は宗教のあり方やそれを信じる事の意味を
漠然とですが理解する事ができたように思えます。
なので読める人は読んでみて下さいな。

評価:★★★☆☆

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