深夜バスは座席も広く三列シートでトイレ付き。
前よりも快適だった。
時間よりはやく着いたのはいいが今回は誰もいない。
梅雨の厚い雲が立ち込める街は信じられないほどに灰色だった。
それはきっと雲のせいだけではないのだろう。
この街にはどうしても逢いたい人がいたが
当然ながら逢うことは叶わなかった。
失意の中、私はかつて通った道をファインダー越しに見つめ、かつて紹介してくれた場所でシャッターをきった。
しかし彼らの視線はもうそこにはない。
それがあったからこそこの街は私の眼にも輝いて見えた。
私には倉敷も新宿東口もなんら変わりはしないように見えていた。
だからただひたすら歩き知らない場所をまわりこの街自身に興味を持とうとした。
結局のところ私は面影に捉えられまともに写真を撮れなかったように思う。
撮れたとすれば悲壮感漂う眠たい写真だろう。
私は一人っきりだった。それを願って行ったはずなのに一人きりだった、と再度思う。
帰りの時刻。
水彩画のような赤紫の空がチボリ公園の上に広がっている。
私はカメラをしまった。
もう何もすることがなくなった。
一秒でもはやく家に帰って眠りたい。
路上で学生達が大声で歌っている。
お互いがそんなに離れていない場所で演奏している為に
私の位置からは雑音にしか聴こえない。
私は去年と同じ場所に座っている。
街は美しくもなんともない。
私を手招きすることももうなさそうだ。
感傷的になって自らの心を守ろうと躍起になっている。
そんな自分に気がついているのに私はそれを止めれない。
むしろ止めたくない。
湿った浮遊感の中で思考をうろうろさせている。
居心地が悪いがどうしようもない。
はやく帰って眠りたい。
じゃないと自分がバカみたいに思えてくるじゃないか。
バスでは眠たくなくても寝よう。
もうここではなんにも考えたくない。